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大阪地方裁判所 昭和38年(ヨ)55号 決定 1963年1月31日

判   決

債権者

奥田蝶子

(ほか五名)

右六名代理人弁護士

岡田和義

木村五郎

債務者

株式会社くいだおれ

右代表者代表取締役

山田六郎

右当事者間の昭和三八年(ヨ)第五五号工作物撤去等仮処分申立事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

債権者者らが保証として債務者に対し、各金三、〇〇〇円の金員を供託することを条件として、債務者は別紙目録記載の建物の南東部に掲げられている「大阪名物くいだおれ横丁」を書いた看板および右看板を支えている工作物(但し鉄枠を除く)を、本決定送達の日から五日以内に撤去しなければならない。

債務者が、右期間内に右看板および工作物を撤去しないときは、債権者らの委任する大阪地方裁判所執行吏は、債務者の費用をもつてこれらを撤去することことができる。

債務者は、債権者らが第一項記載のケ所に、「浪花座横丁」と書いた看板を設置することを実力をもつて妨害してはならない。

申立費用は債務者の負担とする。

理由

債権者らが提出する各疏明によれば、次のような事実を認めることができる。

(被保全権利について)

債権者らが現にそこでそれぞれ飲食店を営業している、肩書住所地所在木造瓦葺二階建店舗一棟七戸(以下本件建物という)は、同建物に至る横丁とともに、右建物の建築された昭和二八年頃当初から「浪花座横丁」と呼称され、右建物の出入口にあたる主文第一項記載のケ所には「浪花座横丁」という看板を掲げ、債権者らが本件建物南端の一戸を除く六戸を除く六戸の各店舗を逐次賃借するに至つた昭和三〇年頃以降においても、引き続き右呼称下に債権者らは飲食店の営業をなして来ている。

そうして浪花座横丁とは、本来は地域の名称であるが、現在では債権者らの飲食店営業の総称のようになつており、また前記看板は、それを一般のお客に指示する道しるべとなつていたのである。

債務者は、本件建物の東隣り右同番地に店舗を所有し、右店舗において「くいだおれ」の屋号で同じく飲食店を営業しているが、昭和三七年一一月二日本件建物の所有者である件外大桑康正から、右建物の南端の店舗一戸を賃借するにおよび、二四日頃前記「浪花座横丁」という看板を取りはずして、そのあとに「大阪名物くいだおれ横丁」と書いた看板を取り付けるに至つた。なお右大桑と債務者間の前記賃貸借契約においては、債務者が賃借するこることになる店舗一戸は、「浪花座横丁」の入口に位置するので、債務者は賃貸人である大桑に対して、「浪花座横丁」の債権者らがなす営業に迷惑をおよぼすような行為は一切しない旨の約定をなしていた。

(必要性について)

債務者の右行為によつて、世間には「浪花座横丁」すなわち債権者らの営業は解体したかのような印象を与える結果となり、そのため債権者らの顧客や仕入先に対して少からざる迷惑を与え、それにともない債権者らの収入は平均して約二割程度の減少を来し、また債権者らに宛てられる郵便物の表示も、「浪花座横丁」の「○○」と記載されるのが一般であつた関係から、その遅配や無配が生じ、さらには広告用のマッチ、名刺、請求書類の「浪花座横丁」という印刷も役に立たなくなるなどという事態を生ぜしめている。

以上認定の事実における債務者の行為は、不正競争防止法一条六号にいう競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為に該当し、そのため債権者らは現に営業上の利益を害せられているから、債権者らは債務者が掲げた「大阪名物くいだおれ横丁」と書いた看板および右看板を支えている工作物の撤去方と債権者らにおいて債務者に対し、従前どおり「浪花座横丁」という看板を掲げることの妨害禁止を求める権利を有するものであり、また本案判決確定まで現在の状態を維持することは、債権者らに対して著しい損害を与えることになるというべきである。

よつて債権者らの本件仮処分の申立は、債権者らが債務者に対し、主文第一項記載の保証金を供託することを条件としてこれを認容することとし、申立費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり決定する。

昭和三八年一月三一日

大阪地方裁判所第一民事部

裁判官 天 野   弘

目録<省略>

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